
学生でごった返すLAXで、間に合わないのではないかとやきもきしながら搭乗時間のぎりぎり前でチェック・イン。カウンターのお姉さんが僕のビザを「これ、期限切れているから。ブラジル入国できないから。」と訳の分からない指摘をしてきて、僕が「いや、これは発給の90日以内にブラジルに入国可能で、その後30日有効のビザだから。」と言っても「いや、ビザの期限が30日で、発給されたのが4月の末だからもう失効しているから。」と。
もちろん日本で南米旅行の代理業を専門とする方に相談してとったビザなので、そんな訳無いのですが、時間的にも切羽詰ってて、そのうえ「ちょっと確認してくるわ。」とどこかへ消えて戻ってきたら「間違いない。失効してる。二人に確認したけど二人とも失効と言っている。」と言うのです。
これから手荷物検査でまた長い列に並ばなければいけないこともあり、時間が無駄に出来ないのでビザの各項目を指差しながら説明し、「これは日本のブラジル大使館のオフィサーが言ってた事だよ。」と申し添えると、「もう一度確認させてくれ。」と。
で、戻ってきたら何のことは無い、「うん、これでブラジル入れるから。」と微笑んじゃったりしてるんです。いちいちイラつく若さも無いので素直に「あ~良かった。」と思っていたら、「ごめんね、私の経験不足だったわ。」とか可愛い言葉が飛び出してちょっとびっくり。ああ、いい旅になりそうだな、と思ったのが甘かったです。
食事をするまもなく飛行機に乗り込み、すぐに飛行機はタキシング開始。
滑走路で姿勢を整えると、おなじみの"All crews, prepare for departure."とキャプテンのアナウンスが。
すぐにジェットの振動と騒音が沸き起こり、飛行機がものすごい勢いで加速していきます。
あと少しで両翼に機体全体を支えるだけの揚力が発生するな、と体をリラックスさせたまさにそのときでした。
「あれ!?」
ジェットの振動とは明らかに違う、リズムから外れた軽い振動があったと思ったら、機体が大きく右方向に傾き始めたのです。
経験から体が勝手に予想をし、全身の筋肉が無意識のうちに通常の離陸に備えてバランスをとろうとしている中、その体の動きを裏切るようにあらぬ方向に自分が投げ出されつつある、と言う恐怖。
突如、ジェットは猛烈な逆噴射を始め、キャプテンがタイヤそのものにもブレーキを掛けたらしく、ものすごいスキール音が機内に響き渡ります。
でも、車どころか、それこそジェット機は急には止まれません。
隣の黒人のお姉さんが窓枠に両手でしがみつく様を「ああ、こりゃ逝くかもな。」と考えながら眺めつつ、機首が何かに衝突し、機体の前方からものすごい勢いで炎に包まれることを想像し、「シートベルト締めていたらエビもうてないな。」と思いバックルに手を掛けながら、その瞬間を今か、今かと待ち続けました。
時間にしてせいぜい10秒程でしょうか。機体は滑走路の中心を大きく外れながらも、特に何に衝突することも無く無事静止しました。
キャプテンからお詫びのアナウンスが入り、タイヤのパンク、破片がジェットに吸い込まれた可能性がある旨が知らされました。30分ほど機内で待機した後、別の機体に乗り換えることになり一度ゲートまでもとりました。

アトランタに到着したのは現地時間の25時過ぎ。当然コネクションなどありません。
ふたたびエージェントの列に並んでホテルの手配、食事の補償となるバウチャーなどを入手し空港を出てホテルへのシャトルバスを待ちました。
30分ほど待っても来ないのでホテルに電話してシャトルが運行中かを確認すると「はい、運行中です。もうすこし待ってみてください。」と。
内心「いや、でもWestinとかはもう3回も来てるし…。」と思いつつも、偶然に翻弄されるのも良いか、などと考えベンチに座ること約1時間。いい加減腹も減ったのでホテルに電話すると、今度は受話器をとってくれない!
どうしようかなぁ、と考えあぐねていると"Gen!"と僕の名を大声で呼ぶ声が!?
「あ、ホテルの人かな?」とのんきなことを考えてそっちを見てみたら、なんとジョンの生徒の巨漢青年ではないですか。聞いてみたら、「アトランタで仕事して休暇とって遊んでた。」とのこと。しかもよくよく聞いてみたら僕と同じ航空会社で、二日連続で機体トラブルでアトランタで足止め食らっていると。
どんな偶然なんでしょうか。世界が狭いにも程があります。
その後もホテルについて、鍵をもらって部屋に入ったら誰かがすでに中で寝ていたり、歩いてマクドナルドのドライブスルーに行ったら「車じゃないと売れない。」と追い払われたり、仕方が無くガソリンスタンドでナチョ・チーズとタコスを買ったらナチョ切れててスズメの涙ほどしか出てこなかったり。

なんだか運が良いのか悪いのか、きちんと埋め合わせされてんだかどうなのかさっぱり分からない一日でした。
※写真は実際にトラブルがあったキャリアとは無関係です。